東京都立大学 理学研究科 English 東京都立大学 理学部/理学研究科

過去の教室談話会

2016年度

第1回

日時7月6日(水) 15:30~16:45
場所8号館2階大会議室
講師神田展行 教授 (大阪市立大学 理学研究科)
題目新しい宇宙観測: 重力波とKAGRA実験
要旨2015年9月に、米国のLIGO実験が2つのブラックホールが合体から生じた「重力波」を、人類で初めて検出しました。重力波は一般相対性理論が予言した時空の歪みの波で、中性子星連星やブラックホールや超新星爆発といった天体現象がその源となります。重力波は、こうした源にたいする新しい天体観測の手段として期待されています。また、いままでにない強い重力場においての重力理論の検証としても意義のあるものです。 本講演では、米国LIGO実験での重力波観測を紹介するとともに、日本でも建設中のKAGRA実験についても現状を紹介します。そして、重力波の観測によって期待されるサイエンス(重力理論の検証、宇宙論的な知見、あるいは高密度核物質の状態方程式など)の代表的なものを紹介し、重力波観測の将来についても述べます。

2015年度

第2回

日時1月14日(木) 16:30~17:50
場所11号館301号室
講師成田 康人 氏(オーストリア宇宙科学研究所、太陽圏プラズマ部門主任)
題目日欧の太陽系探査計画の現状と展望
要旨1960年代より始まった人工衛星による太陽系の現場観測は大きな成功を収めている。地球磁気圏、惑星間空間および惑星周辺の物理状態が明らかになってきており、日本と欧州の太陽系探査の共同研究はさまざまな分野におよんでいる。現在では、電離気体(プラズマ)や磁場の現場観測は太陽系探査において重要な役割を果たしている。これは、太陽や惑星に起因するプラズマや磁場が宇宙空間では大きなエネルギー密度をもっているためである。談話会では、プラズマ素過程である磁気再結合の解明を目的とするMMS衛星(2015年打ち上げ)と乱流場による粒子加熱・加速機構の解明を目的とするTHOR衛星(2025年打ち上げ)、そして惑星探査であるBepiColombo水星探査計画(2017年打ち上げ)とJUICE木星探査計画(2022年打ち上げ)を例に、日欧の太陽系探査計画の現状と展望を紹介したい。

第1回

日時6月11日(木) 16:30~17:50
場所11号館301号室
講師角野 秀一 准教授(首都大学東京)
題目宇宙線ミュオンを用いた原子炉内部の調査
要旨高エネルギー加速器研究機構および筑波大学の研究者と共同で、2011年3月に発生した福島第一原発事故で損傷したとされる原子炉炉心部を、宇宙線ミュオンを用いて調査する研究を行なっている。素粒子実験の実験技術を応用した、宇宙線ミュオンの飛来方向を測定する測定器を作成し、2011年より2013年まで東海第二原発を用いた実証試験を行った。その結果、国際廃炉研究機構(IRID)による廃炉に向けた研究開発の1つとして、2014年度に福島第一原発1号機の炉心部および燃料プールの透視を行うことになった。福島第一原発1号機炉心から35m程度離れた建屋外に2台の測定装置を設置し、2015年2月12日よりデータ収集を開始した。談話会では、福島第一原発1号機のデータ収集に至るまでの研究開発の概要および、5月中旬までに得られた結果(5月末に公表予定)の解説を行う。

2014年度

第2回

日時10月9日(木) 16:30~
場所11号館301号室
講師羽澄昌史 氏(高エネルギー加速器研究機構・東大カブリIPMU・総合研究大学院大学)
題目インフレーション宇宙を探る宇宙マイクロ波背景放射の観測
要旨宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測は、これまで我々の驚くべき宇宙の姿を明らかにしてきた。現在最も注目されているのは、CMB偏光の精密観測により、熱いビッグバン以前のインフレーション宇宙で生成された原始重力波の痕跡を捕まえるという試みである。原始重力波を発見できれば、インフレーションモデルの検証はもとより、背後にある量子重力理論のテストも可能になり、これまで夢とされてきた超ひも理論の実験的検証への道が拓かれる。本講演では、CMB偏光観測の最前線について現状と将来を概観する。

第1回

日時6月26日(木) 16:30~
場所11号館302号室
講師淺賀岳彦 氏(新潟大学)
題目軽い右巻きニュートリノ探索によるニュートリノ質量および宇宙バリオン数の起源の解明
要旨ニュートリノ質量および宇宙バリオン数非対称性の謎は素粒子標準模型では解決できない問題である。本講演では、質量が荷電K中間子よりも軽い右巻きニュートリノを導入することにより、これらの問題を解決する可能性を検討する。軽い右巻きニュートリノに対する探索実験からの制限、および宇宙論からの制限を考慮して実現可能な質量領域を提示する。さらに、将来のニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊実験や、K中間子崩壊実験などによる模型の検証可能性についても検討する。

2013年度

第2回

日時2月5日(水)16:30~
場所11号館 301号室
講師上野秀樹氏(理化学研究所仁科加速器研究センター上野核分光研究室)
題目理研 RIBF 施設と最近の研究成果
要旨理研ではβ崩壊安定線から遠く離れた放射性同位核種 (RI) を世界最高強度のビームとして発生することができる RIBF 加速器施設を建造し、2006 年末のビーム初加速以来、多くの核物理学実験が実施されている。RIBFで供給されるビームは核種・エネルギー共にバリエーションが豊富なのが特徴として挙げられ、核物理以外にもこの特徴を生かした用いた様々な研究が行なわれている。講演では RIBF の基幹設備群や最近の核物理実験成果の説明を行ない、RI ビーム利用の様々な可能性についても議論する。

第1回

日時5月9日(木) 16:30~
場所11号館204室
講師釜江常好氏(東京大学およびスタンフォード大学)
題目宇宙線の陽電子・電子比とダークマター
要旨最近発表されたAMS-2の陽電子の測定結果は、再度、宇宙線の中にダークマターの痕跡を探す研究への関心を高めました。私は研究者が如何なる方法でダークマターを発見しようとしているかを簡単にレビューした後で、地球で観測される宇宙線の陽電子・電子比を使った研究に焦点を当てます。AMS-2の結果は、論文として発表済みのPAMELAやFermi-LATの結果と同様に、ダークマターの対消滅・崩壊でも、近くのパルサーやパルサー星雲で造られる宇宙線でも説明がつきます。Fermi-LATのガンマ線観測の結果と合わせた解析や「標準的とされる理論」に基づくと、ダークマター起源とするのは困難です。大多数の研究者は、ダークマター以外の解釈に傾いていますが、工夫を凝らせた面白い理論も提案されています。

2012年度

第3回

日時12月20日(木) 16:30~
場所8号館212号室
講師上田和夫 氏 (東京大学物性研究所)
題目電子間の斥力と引力磁性と超伝導をめぐって
要旨物質の性質は原子核のポテンシャル中を運動する電子の集団が担っている。電子は素粒子の一つであって、自然界の基本定数である電子質量と素電荷および大きさ1/2のスピンによって完全に特徴づけられる。そのことを思うと、物質の示す性質の豊かなバラエティは不思議なことと云わなければならない。とくに磁性と超伝導は物質が示す顕著な状態の代表であるが、それらと電子間の相互作用との関係について眺めてみる。

第2回

日時6月28日(木) 16:30~
場所11号館204号室
講師山下了氏 (東京大学素粒子国際研究センター)、大森恒彦氏 (KEK素核研)、石川明正氏 (東北大学理学部)
題目ILC大学連携タスクフォースセミナー 「宇宙創生の謎にせまる 国際リニアコライダー計画 」
要旨 宇宙開闢から1兆分の1秒後に迫る国際リニアコライダー(ILC)は、2012年の技術設計書,測定器詳細設計の完成をめざし,国際協力体制で開発研究が 進められている。本セミナーではLHCの結果がでつつある状況を踏まえ,ILCの目指す物理やそれを取り巻く国内外の状況を紹介する。
 ILCの物理と計画概要 (山下了氏): 電子陽電子衝突によるクリーンな環境を生かして,どのように宇宙創生の謎にせまるのか?素粒子物理学の現状やLHCの最新結果を踏まえ, ILCの目指す物理を解説する。また,ILC計画の全体像とその実現に向けた国内外の状況について解説する。
 ILC加速器(大森恒彦氏): 全長40kmにも及ぶILC加速器の概要を解説するとともに,建設に向けた最先端技術開発の状況,研究開発体制を解説する。
 ILC測定器(石川明正氏): ILCの物理を実現するためには,これまでの測定器をはるかに超える分解能が要求される。なぜこのような分解能が要求されるのか,それをどのように実現しようとしているのか。測定器開発の状況や実機建設に向けた体制について解説する。

第1回

日時5月24日(木) 16:30~
場所8号館212号室
講師橋本 幸士氏 (理化学研究所)
題目応用数理としての超弦理論
要旨重力と全ての素粒子の相互作用を含む量子論、すなわち究極理論、の候補として知られる超弦理論は、その数理的に豊かな構造体系の発見により、現在では宇宙論、ハドロン物理など周辺の諸物理
学への数理応用が盛んに行われるまでになっている.
本講演では、従来の方法では解くことの困難な物理系について、超弦理論の数理を用いた新しい解法を紹介したい.具体例として、強結合系であるクォークの物理(QCD)を解くことで原子核物理の微視的基礎づけを試みる.特に、近接核力や原子核の形成、核子半径や原子核半径の導出に関して解説する.また、強相関電子系や宇宙ひもなどへの応用についても述べ、超弦理論が応用数理として機能する物理を説明する.

2011年度

第3回

日時1月19日(木) 16:30~
場所8号館212号室
講師Prof. Dmitri V. Golberg(独立行政法人 物質・材料研究機構 (つくば市))
題目High-Resolution Transmission Electron Microscope as a New and Unique Tool for Nanomaterial Property Studies
要旨The knowledge of physical and chemical properties of one- and two-dimensional nanomaterials, in particular, on the individual structure level, is of prime importance as far as their real integrations into modern nanotechnology are concerned. Until now, such property measurements have usually been carried out using the instruments (e.g. scanning electron- (SEM) and atomic force microscopes (AFM)) having no direct access to the materials’ internal structures. This has significantly decreased the validity of data since the particular structural features of the material tested (that, in turn, determine its properties) have been unknown. Only recently, the projects on property measurements under ultimately high-spatial resolutions, natural to high-resolution transmission electron microscopes (HRTEM), have attracted full attention. In order to carry out such studies, special types of TEM holders with either scanning tunneling microscope (STM) or AFM capabilities have been designed. It is
particularly emphasized that until the present work, apart from the case of standard multi-walled C nanotubes and C graphenes, most of the electromechanical, and thermal characteristics of individual inorganic nanomaterials have been unknown. We demonstrate how the modern in situ TEM techniques utilizing STM and AFM inte-grated units can originally be applied to measure the nanotube/nanowire/graphene elec-trical, mechanical and thermal properties, and to manipulate, and engineer the nanostructures inside a TEM. The objects of interest include diverse inorganic nanotubes made of C and BN with or without metal or inorganic fillings, nanowires (Si, ZnS, GaN), nanobelts (CdS), and standard “black” (i.e. C) or novel “white” (i.e. BN) graphene-like structures.
We have been focusing on several practically important aspects, as revealed by in situ TEM: (i) direct bending and tensile tests of individual multi- and single-walled C and BN nanotubes, and corresponding graphenes; (ii) interactions of C nanotubes and graphenes with various metal electrodes under a current flow and subsequent Joule heating; (iii) precise temperature (its gradients and spatially, and temporally resolved profiles) measurements on nanostructures using multi-terminal electrical circuits created inside the STM-TEM holder or through utilizing sublimable inorganic compounds as precise temperature markers; (iv) effects of different deformation modes on the electrical performances of nanoobjects; (v) field- and electron emissions from individual C nanotubes and graphenes; (vi) complex nanostructure networking using nanomanipulations and in-tandem electron irradiations, and resistive heatings; (vii) electron irradiation-induced C doping recorded within 1D and 2D BN nanosystems that allowed us to effectively construct various nanoscale semiconductors with tunable bandgaps; and (viii) unusual metallic phase transformations and tiny mass transport inside C nanotube containers.

第2回

日時10月6日(木)
講師成田 康人 氏(ドイツ・ブラウンシュバイク工科大学(宇宙物理学))
題目人工衛星で探る太陽系の科学
講師 増永 拓也 氏(第 51 次南極地域観測隊気水圏モニタリング観測越冬隊員)
題目最新の南極観測報告と越冬生活

第1回

日時7月5日(木) 16:30~
場所8号館212号室
講師横山将志氏(東京大学)
題目T2Kニュートリノ振動実験の最新結果
要旨ニュートリノ振動は,ニュートリノが飛行中に種類を変える現象であり,1998年にスーパーカミオカンデで発見されて以降,ニュートリノの質量や世代間の混合を研究する手段として世界中で実験が行われている。 我々が行っているT2K実験では,茨城県東海村のJ-PARC加速器で生成した大強度ニュートリノビームを295km離れたスーパーカミオカンデで検出することで,ニュートリノ振動の研究を行っている。 中でも特に,ミューオンニュートリノから電子ニュートリノへの変化を発見し,将来のレプトンセクターでのCP非対称性の測定につながる道を開くことが最も大きな目標のひとつである。 今回,2011年3月11日までに記録した全データを解析した結果,電子ニュートリノ出現現象の兆候を世界で初めて捉えた。 本講演では,T2K実験の概要と今回の結果,および今後の展望についてお話しする。

2010年度

第3回

日時2月10日(木) 16:30~
場所11号館204号室
講師安藤恒也氏 (東京工業大学理工学研究科教授)
題目グラフェンの物理
要旨2004年グラファイトの単原子層からなるグラフェンが作製され,翌年には電気伝導や量子ホール効果が観測された.その後,数多くの新しい実験結果が報告され始めるとともに,毎日のように新しい理論が発表され,2010年にはノーベル物理学賞の対象にまでなった.このグラフェンの電子状態に関する最近の研究を理論的側面から紹介したい.
グラフェンは蜂の巣格子をもち,フェルミエネルギー付近のバンドが,第一ブリルアン域の端にあるK点とK’点付近で,波数の1次に比例する円錐状の分散をもつ.そのため,電子の速度が運動量に依らず一定となり,電子は決して止まらず,光のように常に同じ速さで動く.また,そのシュレーディンガー方程式はベリーの位相のために零エネルギーにトポロジカル特異点をもつ.この特異性は,後方散乱を禁止するとともに,反磁性帯磁率のデルタ関数的特異性を始め,電気伝導率などの物理量にさまざまな特異性を引き起こす.また,2層以上のグラフェンが積層した多層グラフェンも作成されている.2層グラフェンのバンド構造は層間の相互作用により単層グラフェンと比較して大きく変化する.多層グラフェンでは,通常,各層がAB積層と呼ばれる構造で規則的に積層している.重要な層間相互作用に限ると,ハミルトニアンは,1個の単層グラフェンと多数の2層グラフェンに分離することができる.この分離により,多層グラフェンの電子状態の特徴を理解することができる.

第2回

日時1月13日(木) 16:30~
場所11号館204号室
講師榎敏明氏 (東京工業大学理工学研究科教授)
題目端の幾何学構造に依存するナノグラフェンの電子状態と物性
要旨グラフェンは質量の無いDirac型フェルミオンとしてその電子構造は記述される。無限サイズのグラフェンをカットし、端を作るとグラフェンの電子構造は端の幾何学構造を大きく反映し、電子波の干渉効果や端に局在したエッジ状態が形成される。このような端の構造に大きく依存した有限サイズのグラフェン、とりわけナノサイズのグラフェン(ナノグラフェン)の電子構造は、その強い電子的・磁気的・化学的活性の源となり、また、このような活性を基礎に電子デバイスへの応用が期待されている。本講演では、講演者の研究成果を基礎に、グラフェン端、ナノグラフェンの電子構造、磁性の問題について議論をする。

第1回

日時10月14日(木) 16:30~
場所11号館204号室
講師Prof. A.A. Starobinsky (Landau Institute of Theoretical Physics, 東京大学大学院理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センター)
題目Four epochs and four fundamental constants of modern cosmology
要旨According to the present paradigm of cosmology which is in agreement with all existing observational data, the observable part of the whole history of our Universe consists of 4 main epochs: 1) primordial vacuum-like (de Sitter, or inflationary) stage; 2) radiation-dominated stage; 3) matter-dominated stage, and now we are living in the process of transition to the second vacuum-like stage which is remarkably qualitatively similar to the first one. The quantitative phenomenological description of this history is based on known principles of classical and quantum physics. However, it requires an introduction of 4 new dimensionless constants, in addition to whose known from laboratory experiments, and the two kinds of matter seen through their gravitational interaction only: non-relativistic dark matter and vacuum-like dark energy (primordial and present ones). I describe those 4 constants and the physical theories standing beyond each of them and discuss which new constants may be expected soon from cosmological observations and how the theory may help us to keep the number of those constants at the same level (if not diminish it by some unification). The remarkable analogy between the primordial dark energy which drove inflation long ago and the present one suggests that the latter is not stable and eternal.

2009年度

第3回

日時12月17日(木) 16:30~
場所11号館204号室
講師杉山 直 氏 (名古屋大学教授、東京大学IPMU主任研究員)
題目宇宙での構造形成
要旨我々の宇宙には、恒星惑星系から星団、銀河、銀河群、銀河団、そして宇宙の大規模構造 といった多様な、そして階層的な構造が存在している。このような構造、特に銀河から大 規模構造に至る巨大な構造が、どのように形成されてきたのかは、宇宙論研究者の大きな 興味を引き付けてきた。 現在では、構造の種は、宇宙のごく初期、インフレーションの 時代の量子的揺らぎに遡ることがほぼ明らかになってきた。この揺らぎが、膨張宇宙の中 で発展し、38万年の時代に見せる姿が、宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎである。本 講演では、宇宙の構造の形成について、理論的にどこまで明らかになってきたのかを最新 の観測を交えながら解説し、その素粒子物理学に対するインパクトについても触れる予定 である。

第2回

日時11月12日(木) 16:30~
場所8号館212号室(大会議室)
講師ハラルド フリッチ氏(ミュンヘン大学)
題目物理の基本定数とその時間変化
要旨素粒子の標準模型には28個の基本定数が存在する。それらの 値は実験で測定されているが、理論的に理解されているとは言えな い。これらの基本定数、主に粒子質量を議論する。天文学的な測定 から微細構造定数は一定ではなく時間に依存することが知られてい る。(南方注:本当か?)大統一理論は量子色力学のエネルギース ケールが時間に依存することを意味する。従って、原子核の質量や 磁気能率は時間に依存することになる。私はこの時間依存性の検証 実験を提案したが、これは現在ミュンヘンのヘンシュ教授のグルー プで実行されている。この実験の初期の結果は量子色力学のスケー ルが時間によって変ることを示している。この理論的意味を考察する。
In the Standard Model of Particle Physics we are dealing with 28 fundamental constants. In the experiments these constants can be measured, but theoretically they are not understood. I will discuss these constants, which are mostly mass parameters. Astrophysical measurements indicate that the fine structure constant is not a real constant, but depends on time. Grand unification then implies also a time variation of the QCD scale. Thus the masses of the atomic nuclei and the magnetic moments of the nuclei will depend on time. I proposed an experiment, which is currently done by Prof. Haensch in Munich and his group. The first results indicate a time dependence of the QCD scale. I will discuss the theoretical implications.

第1回

日時5月14日(木) 16:20~
場所8号館212号室(大会議室)
講師小久保英一郎氏(国立天文台)
題目惑星系の構造と起源 -塵とガスから惑星へ-
要旨水金地火木土天海と親しみ覚えられている太陽系はどのようにして誕生したのだろうか。 太陽系の惑星は3種類に分類される。地球のような岩石と鉄でできた地球型惑星(水星、金 星、地球、火星)、木星のようなガスでできた木星型惑星(木星、土星)、天王星のような 氷でできた天王星型惑星(天王星、海王星)。これらの種類の違う惑星はどのようにして形 成されたのだろうか。現在の標準的なシナリオでは、惑星系は原始惑星系(太陽系)円盤と よばれるガスとちり(ダスト)からなる恒星まわりの円盤から形成される、と考えられてい る。原始太陽系円盤からの太陽系形成は、微惑星形成、原始惑星形成、惑星形成の3段階 からなっている。本講演では、まず太陽系とはどのような系であるかをまとめ、それから 太陽系形成の各段階について詳しく見ていく。そして、どのようにして地球型惑星、木星 型惑星、天王星型惑星と並ぶ美しい太陽系が形成されるのかを紹介する。

2008年度

第2回

日時12月12日(金) 16:00~
場所8号館212号室(大会議室)
講師東俊行氏(首都大物理)
題目結晶周期場中を飛ぶ高速原子 ―X線レーザーのライバル?―
要旨光とは時間的に振動する電磁場である.では空間的に周期性をもった静 電磁場中に原子を通過させてみよう.座標変換すれば原子は振動電磁場 を見るはず.原子がこの「光のようなもの」を吸収すれば励起される. この原理に従って,光速に近い速度の原子,オングストロームの周期を もつ結晶を使えば,高強度単色X線照射と同じ現象が観測される.
 我々は,まさにこのようなコヒーレント励起を観測し,最近ではX線 や極紫外光領域での2重共鳴にも成功した.これは原子物理に限らず, 物性物理からレーザーや加速器技術分野にまで関連した現象であるとと もに,通常の光源では困難なエネルギー領域での原子状態操作を可能に する全くユニークで新しい方法を提示する.その魅力と応用をさまざま な側面から紹介する.

第1回

日時5月23日(金) 16:00~
場所8号館212号室(大会議室)
講師安岡弘志氏(日本原子力研究開発機構(先端基礎研究センター))
題目核磁気共鳴法の魅力―MRIを中心として―
要旨“物”の性質を知るには、外から何らかの刺激を与え、その応答を観測 することによってなされている。さまざまな方法の中で、核磁気共鳴 (NMR)法は極めて低いエネルギーの刺激に よって高精度で局所的な情報を抽出できる特 徴をもっている。このNMRの技術は古くより 物質の性質、特に磁性や超伝導の解明に数多くの成果を挙げてきてい る。更に、近年では医学の分野に応用が広がり核磁気共鳴を用いた人体 の断層撮影(MRI)法が開発された。この技 術は医療の現場でガンの早期発見や脳疾患の治療などに威力を発揮して いる。このようなNMRの魅力についてMRIの開発物語などをまじえて紹介する。

2007年度

第2回

日時11月15日(木)16:00~
場所8号館212号室(大会議室)
講師片浦弘道氏(産総研自己組織エレクトロニクスグループ長)
題目単層カーボンナノチューブの金属・半導体分離
要旨カーボンナノチューブが発見されて15年ほど経ちました。合成法は進展 し、不純物を含まない高純度のナノチューブが合成できるようになり、多 くの応用も提案されています。しかし、カーボンナノチューブの構造制御 は未だ未熟であり、単一構造はおろか、金属・半導体の分離合成もまだ達 成されていません。我々は、電子デバイス応用を見据えて、完全な金属・ 半導体分離技術の開発に取り組んでいます。今回は、分離に関する最近の 話題と、我々の研究成果をご紹介します。

第1回

日時10月22日(月) 16:00(木)~
場所11号館101号室
講師堀田貴嗣氏(首都大物理)
題目軌道物理の新展開:d電子からf電子へ」

2006年度

第1回

日時10月12日(金) 16:00~
場所8号館212号室(大会議室)
講師多々良 源氏(首都大物理)
題目ナノスケール磁性体の電気伝導
要旨ミクロンからナノスケールでの磁性と電気伝導の絡みから生じる現象についてお話しします。磁化が電気伝導特性に与える影響では磁気抵抗やスピンの持つBerry位相から来るホール効果を紹介し、またその逆に磁化に対して電流が与える反作用をもちいて電流で磁化を反転させる現象について話します。これらは将来の磁気メモリへの応用も考えられます。

2005年度

第4回

日時1月13日(金)16:00~
場所11号館201号室
講師小谷章雄氏(東大物性研名誉教授)
題目銅酸化物および遷移金属酸化物の共鳴X線発光分光
要旨最近、高輝度のシンクロトロン放射光を光源とするX線領域の分光研究が盛んである。X線を光源とすることによって、可視光や紫外光では励起されない内殻電子の励起が可能になり、それによるX線吸収分光、X線光電子分光、X線発光分光などが、固体物性研究のための重要な役割を果たしている。なかでも、X線発光分光は、まず入射X線により内殻電子が励起され、後に残された内殻正孔を埋めるように価電子が輻射遷移する際の発光を分光するもので、2次光学過程であることに特色がある。さらにX線発光分光の入射X線エネルギーを内殻電子の励起閾値近傍に共鳴させることによって得られる共鳴発光分光(RXES)は、固体内電子素励起に関する重要な知見をもたらし、X線分光のひとつのハイライトである。本セミナーでは、RXES の研究の最近の著しい発展について、(1)銅酸化物(高温超伝導関連物質)と(1)遷移金属化合物に対する研究を例として紹介する。不純物アンダーソン模型とクラスター模型による理論研究を中心にし、主な実験結果を紹介するとともに、それらにおけるRXESの機構の解明に主眼をおく。(1)については、これまでに Cu 2p-3d-2p RXES,Cu 1s-4p-1s RXES および O 1s-2p-1s RXES の3つの流れを中心にして、研究が進展してきた。それらは互いに相補的な役割を果たし、d-d励起と電荷移動励起(CT励起)についての極めて重要な情報を提供してきた。また、もう一つの流れとして、Cu Kα RXES が Cu 1s電子のX線吸収端近傍の微細構造の解明に果たしてきた役割にふれ、この方面で得られた最近の研究成果を紹介する。(2)については、TiO2,MnO,NiOの2p-3d-2p RXES に対して、偏光依存性、特徴的なCT励起、d-d励起に対する最近の高分解能測定とその解析などを紹介する。

第3回

日時12月1日(木)16:00~
場所8号館212号室(大会議室)
講師榎本三四郎氏(東北大学 ニュートリノ科学研究センター)
題目カムランドにおける地球ニュートリノの観測
要旨 地球内部に存在するウランやトリウムなどの放射性元素は、その崩壊熱によ り地球の発熱量のおよそ半分を担っていると考えられている。そのため、これ らの元素の総量や分布を知ることは地球のダイナミクスや進化を理解する上で 重要なことであるが、実際には地球深部の化学組成についてはよく分からない ことが多い。
 ウランやトリウムが崩壊して鉛になるまでの過程にはベータ崩壊も含まれる ので、これらの元素が崩壊熱を生成するとニュートリノも同時に放出される。 ニュートリノは物質との相互作用が極めて弱いため、一度生成されると地表の 検出器まで直接到達する。そのため、もしこのニュートリノの観測ができれば、 地球内部の化学組成や熱生成に関する直接的でユニークな情報が得られると期 待される。
 岐阜県の神岡鉱山内に設置されている KamLAND 検出器は、1000トンの高純 度液体シンチレータを用いて、低エネルギーニュートリノの観測をしている。 実験の第一目的は原子力発電所から飛来するニュートリノを観測してニュート リノ振動現象の精密測定をすることであったが、これは同時に地球ニュートリ ノの観測を行うことのできる世界初の検出器でもある。KamLAND グループは、 今年7月、地球ニュートリノ観測における初の実験的結果を発表した。
 この講演では、ニュートリノがもたらす新しい地球科学を既存の地球科学と 比較しながら解説し、KamLAND における観測の現状と、地球ニュートリノ観測 の将来展望について紹介する。

第2回

日時10月27日(木)16:00~
場所8号館212号室(大会議室)
講師多々良源氏(首都大物理)
題目電流でナノ磁性体を制御するースピントロニクスー最近の話題
要旨ナノスケール磁性体では電流で磁化の制御をすることができることが最近明ら かになってきている。細線中で磁区の境界である磁壁に電流をかけることで磁 化反転が起きる現象の理論と最近の実験を紹介する。
参考文献
固体物理、2005年8月号 p 11.

第1回

日時7月15日(金) 16:00~
場所国際交流会館 中会議室
講師坪野公夫氏(東京大学大学院理学系研究科)
題目重力波検出実験の最前線
要旨重力波は光速で伝わる時空のひずみであり、1916年にアインシュタインによって その存在が予言された。その後1980年代の連星パルサーの観測により重力波の存 在は確認されたが、いまだ直接観測は実現していない。重力波は透過性が極めて 良いため、連星合体や超新星爆発の際の星のコアの部分の様子を伝えてくれる。 つまり、光や電波等の電磁波で見る星の表面の情報に対して全く相補的な情報を、 われわれは重力波によって手に入れることができる。これが重力波天文学であり、 将来的には重力波によって宇宙初期の様子も知ることができると期待されている。 1999年に世界に先駆けて日本のTAMA300重力波検出器が本格的な観測を始めた。 2002年にはアメリカのLIGOも完成し、ヨーロッパのGEO,VIRGOとともに世界的な 重力波観測ネットワークができつつある。さらに日本では、次期重力波検出器と してLCGT計画を提案している。また、将来計画として宇宙空間を利用したDECIGO 衛星も推進しようとしている。

2004年度

第5回

日時2月22日(火)16:30~
場所理学部棟大会議室
講師Antti Niemi 氏(Uppsala University)
題目ALL TIED UP IN KNOTS
要旨Knotlike configurations are abundant in Physics, from coronal loops on Suns atmosphere to DNA chains in the cells of living organisms. The knottedness leads to a number of curious and interesting physical phenomena whose theoretical description is both challenging and fun. In this talk we give a survey how knotted configurations appear in physical systems, what are the consequences of knottedness, and how the properties of a knotted structure can be described.

第4回

日時12月20日(月)16:30~
場所理学部棟大会議室
講師吉田 篤正 氏(青山学院大学理工学部)
題目ガンマ線バースト観測の最新成果・2003年~2004年
要旨昨年、ガンマ線バーストにとっての大きな発見が再び得られた。それは、ガン マ線バーストと超新星爆発が関連しているという強い証拠の発見である。大質 量星の崩壊とガンマ線バーストの関連が確立したと考えられる。1997年以降、 この現象の研究は、われわれの予想をこえるような種々の発見によって、急速 な進歩をみせている。これらは、おもに「残光」とよばれる、バーストに付随 し、比較的長い時間スケールで減光する「成分」の観測的研究を通してである 。一方、数秒から数十秒で急速に暗くなるバーストそのもの(残光に対して、 これをプロンプト放射と呼ぶ)については、X線領域での観測がHETE-2衛星に よって進展した。本談話会では、ガンマ線バースト研究の最近2年間の成果を 中心に俯瞰する。とくに、超新星爆発との関連性、またX線フラッシュ、X線 テイル・プリカーサー等、軟X線に感度をもつHETE-2衛星による観測成果を中 心に紹介する。

第3回

日時12月2日(木)15:00~
場所理学部棟大会議室
講師野尻美保子氏(京都大学基礎物理学研究所)
題目素粒子理論2010 --LHCのひらくもの--
要旨素粒子標準模型は現在の実験データをよくあらわしているが、暗黒物質を説明 できないことや、階層性の問題をかかえていることから、 1TeV付近から 標準模型では説明できない現象がおこると考えられている。 さまざまな理論 的試みを俯瞰するとともに、2007年から始まるLHC実験によって、どの ようなことが明らかになろうとしているかを説明する。

第2回

日時9月10日(金)16:00~
場所理学部棟大会議室
講師片山伸彦氏(高エネルギー加速器研究機構)
題目「KEK Bファクトリーの現状と将来」
要旨非対称エネルギー電子陽電子衝突型加速器、KEK Bファクトリー加速器(KEKB )は、世界最高のルミノシティ記録を更新し続けながら、極めて安定に稼動し ている。KEKB の概要について、特に、高い性能を達成するための数々の独創 的な設計と工夫、そしてさまざまな問題点に遭遇しながら克服してきた経緯、 に重点をおきながら紹介する。KEK B ファクトリー実験(Belle)のこれまで の主な発見について、小林・益川理論の予言するB 中間子の「CP対称性の破れ 」やさまざまな「ペンギン稀崩壊」を中心に紹介する。それらが素粒子物理に どんなインパクトを与えたか、また現在収集中の新データおよび将来計画の「 スーパーBファクトリー」での展望について述べる。

第1回

日時7月8日(木)16:00~17:30
場所理工102教室
講師押川 正毅 氏 (東工大)
題目Junction of Three Quantum Wires and Dissipative Hofstadter Model
要旨量子細線の低エネルギー極限での物理はいわゆるボソン化によって朝 永-Luttinger流体として記述される。これを用いて2本の量子細線の接合に関 しては多くが解明されている。一方、3本以上の量子細線の接合を考えると、 ボソン化のみでは取り込めない電子のFermi統計性が重要となり、また場の理 論の問題としても困難が多く未解決の問題が多い。 本講演では、3本の量子細線のリングを介しての接合を考察する。電子のFermi 統計と、リングを貫く磁束によるAharonov-Bohm効果により、この問題は、散 逸力を受けながら磁場の下で平面上を運動する単一粒子の問題に帰着する。こ れを用いて、相互作用パラメータがある範囲にあるとき、リングを貫く磁束の 符号によって、低エネルギー極限で非対称な電気伝導を示すことを導く。

2003年度

第5回

日時1月14日(水)16:30〜 17:30
場所理学部大会議室
講師小野義正 氏(日立製作所 研究開発本部)
題目日立のナノテクノロジーへの取り組み
要旨 ナノテクノロジーは閉塞感の強い日本経済を再び活性化する起爆剤として期待され ている。日立総合計画研究所の試算によると、わが国のナノテクノロジーの市場規模 は2005年で2兆円、2010年には27兆円規模と予測されており、基礎研究の一層の発展と 共にその産業応用が望まれる。経団連の「ナノテクが創る新産業-n-Plan2002」で は、ナノテクノロジーの研究開発の中から重点投資すべき分野として、5~10年先の実 用化・産業化を意識したフラッグシップ型プロジェクト、革新的な基盤技術開発を軸 としたチャレンジ型プロジェクト、ナノ構造の物性探索・機能解明、計測、理論解析 などの基礎研究を上げている。
 ナノテクノロジーの応用分野としては、フラッグシップ型には一例として、IT・エレクトロニクス分野のストレージ、半導体があり、チャレンジ型には、環境・エネルギー分野のナノ材料・ナノプロセスに基づく分散電源(燃料電池)、高性能触媒等、医療・バイオ分野のマイクロ分析チップ、遺伝子解析センサ等がある。さらにそれらを支えるナノ基盤技術としての計測・加工・シミュレーションでは、超高圧電子顕微鏡、ハイエンドコンピューティング等がある。
 本講演では、日立のナノテクへの取り組みを例にとり、ナノテクノロジーの研究開発 の背景、応用分野のIT・エレクトロニクス、環境・エネルギー、医療・バイオとナノ 基盤技術の計測・シミュレーション分野での研究開発状況について報告する。最後に、日立基礎研究所の外村彰フェローの100万ボルトホログラフィー電子顕微鏡を用い た研究(電子カウンティング、高温超電導体の磁束の動的観察など)についてムービーを用いて紹介する。

第4回

日時12月16日(火)15:00~
場所理学部 大会議室
講師放射光を用いた固体物性研究の新展開
題目村上洋一 氏(東北大・理)
要旨放射光源と光学技術の急速な進歩により、高輝度放射光X線を利用することができるようになった。放射光の持つ特徴である、エネルギー可変性・偏光特性・高指向性・コヒーレンス性を駆使することにより、これまで見えなかった精密構造を比較的容易に求めることができる。本セミナーではそのような構造物性研究のいくつかの例を紹介する。特に、電子軌道の自由度を観測する手法の一つである共鳴X線散乱法について述べ、軌道秩序状態の素励起「軌道波」探索の現状を報告する予定である。

第3回

日時11月21日(金)16:00~
場所理学部大会議室
講師量子コンピュータの基礎理論入門
題目西野哲朗 氏(電通大)
要旨本講演では、近年注目を集めている量子コンピュータの基本的枠組みと、その数学的基礎理論について、なるべく平易に解説する。具体的には、量子計算の基本原理、量子チューリング機械や量子回路といた量子計算モデル、ショアの因数分解アルゴリズムや、量子計算量理論について説明する。さらに、NMR 量子計算や、量子コンピュータ実現に向けての試みなどの最新のトピックスにも触れる。

第2回

日時7月8日(火)16:30~
場所国際交流会館 中会議室
講師佐藤哲也 氏(地球シミュレータセンター長)
題目地球シミュレータ
要旨“平衡と安定”を自然の姿とみなす現代科学のパラダイムから”非平衡と変化”を自然の本当の姿とみる科学の新しいパラダイムに導くシミュレーション科学の創出
 「地球シミュレータ」の誕生は、私たちに大きな二つの贈り物を与えてくれました。一つは、20世紀までの科学に欠けていた、無数の要素がお互いに複雑に絡み合って織りなすシステム全体の進化の問題を解明していくことができる研究手段です。17世紀のデカルトやニュートン以来300年以上に渡って行われてきた20世紀までの科学は、自然を理解するために全体を部分に分解し、基本的な要素のプロセス、原理、法則を求めていくという方向で進んできましたが、複雑な現象を総合的に包括的に理解しようという発想や手段はほとんど無かったのです。「地球シミュレータ」が出来て初めて、雲や雪の生まれる過程というミクロなプロセスから、大気の大循環といった大きなプロセスまで、すべてが同時に絡み合ったありのままの地球の姿を総合的に把握することが可能になり、今まで人間の知的創造が全く及びもつかなかった領域まで探ることができるようになりました。
 二つめは、地球環境が今後どのように変化していくかを正確に予測する手段です。これは人間の日常生活に直接かかわるものです。人間が生み出した自動車、飛行機、電気器具、ケミカル製品などの大量消費が未来の地球環境にどういう影響を与えるのか。私たちは地球温暖化現象や地震など異常現象に直面しながらも、この先どうなるのかを正確に予測する術がありませんでした。
 「地球シミュレータ」によって、現在を基点に遠い地球の過去の姿の再現から、未来の姿まで予測することができるようになったのです。自然災害や環境破壊から人命と財産を護り、地球とのやさしい共生関係を生み出すことに貢献したいと考えています。(地球シミュレータwebページより)

地球シミュレータwebページ:
http://www.es.jamstec.go.jp/esc/jp/

第1回

日時6月13日(金) 16:00~
場所理学部大会議室
講師高部英明氏 (阪大レーザー研)
題目超高強度レーザーによる実験室宇宙物理学の可能性
要旨 核融合研究のために開発されてきた高強度レーザーを物質に照射することで太陽の中心やコンパクト星の表面に近い温度密度を持ったプラズマを実験室に作ることが出来る。また、瞬時に空間の一点にエネルギーを投入できることから、超新星爆発のミニチュアの流体力学的、非平衡原子過程などの模擬実験が可能となる。さらに、80年代後半に提唱されたCPA法によりレーザーの強度は10^20W/cm^2、電場にして10kV/Angstromにまで達するようになった。この様な超高強度レーザーで陽電子の生成や相対論的プラズマの研究が可能となった。
 講演では、この様なレーザーでどのような宇宙物理の模擬実験が出来るか、その結果から宇宙物理学者は何を期待するのか、さらに、加速器ビームや超強磁場発生装置と組み合わせることにより何が出来るか、等について分かりやすく解説したい。

2002年度

第4回

日時2月7日(金)16:00〜
場所国際交流会館中会議室
講師早野龍五氏(東大理)
題目反水素原子の大量生成
要旨我々は2002年夏、CERNにおいて反水素原子(反陽子と陽電子の束縛状態:原子番号-1の反物質)の大量生成に世界で初めて成功した。そもそも我々がなぜ反水素生成をめざしたのか、反陽子の存在も陽電子の存在も知られているのに、反水素を作るのがなぜ困難なのか、次のステップは何か、などについてお話する。

第3回

日時1月17日(金)16:00〜
場所国際交流会館中会議室
講師末包文彦氏(東北大学ニュートリノセンター)
題目カムランドによる原子炉ニュートリノ欠損の発見
要旨東北大学ニュートリノ科学研究センターが中心となって進めている「カムランド実験」では、平均180キロメートル離れたところにある原子力発電所から飛来する反電子ニュートリノの量が欠損している現象を世界で初めて捕らえました。 この現象を説明する原因として最も可能性の高いものは、ニュートリノ振動です。 もしニュートリノ振動が生じているとすると、4年前にスーパーカミオカンデグループが発見したもの(μ型ニュートリノからτ型ニュートリノへの振動)とは、別の振動現象(電子型ニュートリノからμ型ニュートリノ)の発見となります。さらに、カムランド実験から得られた結果は、太陽ニュートリノ問題を説明する振動パラメータを一つに絞り込むことになり、高い確率で太陽ニュートリノ問題を解決したことになります。

第2回

日時11月6日(水)15:00〜
場所理学部棟大会議室
講師湯川哲之氏(総合研究大学院大学)
題目生命起原の新しいシナリオ
要旨生命の起原は我々にとって興味の尽きない話題であるにもかかわらず、学問的には研究がずいぶん遅れた分野である。幸いにも、このことは専門家でない私達でさえアイデアと経験を携えて発見のゲームに参加できることを意味する。今日は、一理論物理学者が生命の起原についてどのように取り組んでいるかをお話しし、出来れば、新しい研究に取り組む活力を、少しでも皆さんにお伝えできたらと願っている。話の内容は、
1.アミノ酸は、地上に海が出来る前の原始大気中で生まれた?
2.ペプチドワールドがまずあった?
3.左右非対称性の起原はパリティの非保存にある?
これら3点について、私たちの実験の経過と結果を踏まえながら提案する。

第1回

日時7月23日(火)13:30〜
場所理学部大会議室A
講師住吉孝行氏(都立大物理)
題目Bファクトリで探る消えた反物質の謎
要旨 我々の住んでいる宇宙は、百数十億年前にビッグ・バンで誕生したと考えられている。誕生したばかりの高温状態では、粒子と反粒子がきっちり同じ数だけ創られたはずである。ところが、我々の身の回りや宇宙にはほとんど反粒子や、反粒子で出来た反物質などを見る事は無い。それでは反粒子はどこに消えてしまったのであろうか?
 その謎を解く鍵がCP対称性破れである。即ち粒子と反粒子で物理法則に違いが有ると言う訳である。
 1964年、素粒子の世界でCP対称性の破れが発見された。中性K中間子の崩壊で約0.3 % 程度のCP対称性の破れが見つかったのである。それを上手く説明する理論的モデルが小林・益川により提唱された。このモデルを信じれば、bクォークを含むB中間子で大きなCP非対称性が期待される。本当にそうなのか否か?それを確かめる実験が、つくばの高エネルギー加速器研究機構で行われているBファクトリー実験である。
 これまで、約9000万事象のB中間子と反B中間子対がこの実験で創られている。これらのB中間子の崩壊を詳しく調べるてみると、予言通りB中間子と反B中間子で約80%の大きなCP非対称性がある事が分かった。この発見はB-ファクトリー実験の最初の大きな成果であるが、それ以上に面白い結果も見えてきている。
 談話会では、今が旬のB-ファクトリ-実験を解説したいと考えている。

2001年度

第6回

日時2月6日(水)16:00~
場所国際交流会館中会議室
講師川島 直輝 氏
題目Art of Computation
要旨物理学の全ての分野で計算機は使われているが,最近の10年間 で格子上の量子多体問題に関する計算手法がとくに大きく進歩し, 物性の理解と予言においてこれまでとは質的に異なる役割をはた すようになってきた.ループ・クラスタアルゴリズムと呼ばれる アルゴリズムによる量子モデルのモンテカルロシミュレーション や密度行列繰り込み群などがその代表例である.そのようなもの のなかから,私自身がかかわってきた手法について紹介する.

第5回

日時12月6日(木)13:30~
場所理学部棟 大会議室
講師東 俊行氏
題目結晶場による相対論的重イオンのコヒーレント共鳴励起の観測
要旨高速イオンが結晶を通過する際、通過イオンは原子列や原子面を周期的に横切る。こ れは、通過イオンの静止系から眺めると、イオンが周期的電磁場を感じることに相当 する。この電磁場エネルギー がイオンの内部自由度の準位差に一致すれば、イオン の準位は共鳴的に励起される可能性があり、干渉性共鳴励起と呼ばれる。最近、相対 論的エネルギー領域の重イオンを用いることにより、コヒーレンスが格段に向上し、 精密な共鳴励起スペクトルが得られるようになった。その結果、共鳴のダイナミクス が理解されるとともに、全く新しい高分解能分光法としての可能性や強疑似光子場と しての側面が明らかになってきた。このコヒー レントな共鳴励起現象について、原 子物理のみならずさまざまな基本的な話を織り交ぜながら,最近の研究成果をわかり やすく紹介する。

第4回

日時10月29日(月)14:30~
場所理学部棟 大会議室
講師Dr. Sergei V. Ketov (Univ. Kaiserslautern)
題目PROBING QUANTUM GAUGE THEORY BY CLASSICAL GRAVITY
要旨Recent developments in describing certain strongly coupled quantum gauge field theories by using the dual supergravity picture are reviewed from the first principles. The new fundamental notions of M-Theory and BPS branes are introduced in the elementary way. The Maldacena correspondence between conformal field theories and gravity in anti-de-Sitter space, as well its (Witten) generalization to finite temperature, are explained in detail. These remarkable achievements are believed to be significant far beyond the theoretical high-energy physics. As an application, the glueball masses in QCD are calculated. The presentation is designed for non-experts.

第3回

日時7月25日(水)16:00~
場所国際交流会館大会議室
講師石田 學 氏 (都立大・物理)
題目大質量X線連星パルサー GX301-2 の星周物質のプラズマ診断
要旨GX301-2 は太陽の35倍の質量を持つB型超巨星と4テラ・ガウスの強い磁場 を持つ中性子星の連星系である。中性子星は、超巨星から吹き出す星風の一部 を自分の重力圏に取り込み、これが磁極に落ち込む時に解放される莫大な重力 エネルギーによって、X線領域で光度10^{35}~10^{37}erg/secで輝いている。 磁極に落ち込む前の星周物質がこのX線を浴びると、蛍光作用により、重元 素から特性X線が放射される。星風に含まれる重元素のうちでも特に蛍光収率 が高い鉄原子から出るKα線は、X線パルサーに共通に見られるスペクトルの 特徴をなしており、中でも GX301-2からは、これまで知られているどのX線パ ルサーよりも強烈な鉄のKα線が観測される。 また、GX301-2 は周期41日、離心率e=0.47の楕円軌道をもっており、中性子 星と超巨星の距離は、軌道の位相によって3倍ほど変化する。このため、観測 されるX線強度やスペクトルは、軌道の位相によって大きく変化し、実に多様 な様相を示す。 わが国4番目のX線天文衛星「あすか」は、GX301-2 を1994年から1996年に かけて、近星点付近、遠星点付近、そしてそれらの中間点で3回観測した。そ の結果、鉄の蛍光Kα線の中心エネルギーや輝線の広がりの精密測定から、パ ルサー(中性子星)の周囲ではこれまで信じられていた程には電離が進んでい ないこと、そして中性子星に取り込まれた星風が磁極に落ち込んで行く様子を 捉えたことなど、いくつかの新発見があった。これらの結果を、X線パルサー の磁極での輻射輸送の研究や、強い磁場と高温プラズマの相互作用の研究との 関連で議論する。

第2回

日時6月6日(水)16:20〜(16:00〜 コーヒータイム)
場所国際交流会館 大会議室
講師秋光純氏(青山学院大学理工学部教授)
題目超伝導の夢を追って-MgB2発見物語-
要旨我々は,今年始め,金属系としては,最高のTcを持つMgB2という超伝導体を発見した. これは、実は、4年生が,卒業研究で発見したものである. これは,どのようにして発見されたのか,その前にどのような”臥薪嘗胆”があった のか、また、MgB2が見つかった意義等についてお話したいと思います.

第1回

日時5月15日(火)16:20〜(16:00〜 コーヒータイム)
場所理学部大会議室 A
講師高橋義幸氏(アラバマ大学物理学科&応用光学研究所教授、理化学研究所客員主管)
題目極限エネルギー宇宙探査衛星計画 EUSO と OWL
要旨この宇宙で粒子がもつエネルギーに限界はあるのだろうか? 宇宙背景輻射に阻まれてこれ以上は不可能と言われていた限界エネルギー (5 x 10の19乗電子ボルト)を越えたエネルギーを持つ宇宙線事象が 全世界ですでに20例も観測され、この起源についての興味が高まって きています。この解明に挑戦するために宇宙軌道上から宇宙線シャワーを 観測する衛星実験が世界の二カ所で計画されています。

2000年度

第3回

日時10月26日(木) 16:30~18:00
場所理学部大会議室 (212室)
講師荒船次郎 先生(東京大学宇宙線研究所教授)
題目Non-topological Soliton (Q-ball, Fermi Ball) の Flux

第2回

日時6月22日(木) 16:00~18:00
場所理学部大会議室A
講師Prof. Peter Schuck (Institut des Science Nucleaires, Grenoble, France)
題目Superfluid Atomic Fermions in Rotating Magnetic Traps(回転する磁気トラップ中のフェルミ原子超流体)
要旨1995年に、磁気トラップに閉じこめた極低温のアルカリ原子に対してボーズ・ア インシュタイン凝縮が実現して以来、この方面の研究が急速に進展しています。 その静的・動的性質はもとより、量子統計力学の基礎から応用まで広い範囲の話 題を提供しています。昨年秋には、さらに極低温で、原子のフェルミ凝縮も観測 されました。これらの凝縮系は希薄で理想気体に近いという性質をもつ一方、外 部ポテンシャルにトラップされた有限系であるため、安定性や動的性質に関して 無限系とは異なるさまざまな特徴が現れます。また、フェルミ系に関する次の実 験段階として、超流体への転移が期待されています。談話会では、ボーズ・アイ ンシュタイン凝縮に関する導入と、極低温フェルミ原子系および超流体の性質、 そしてとくに最近話題になっている回転運動に関して話していただきます。 Peter Schuck 教授は、原子核を中心としたフェルミ粒子多体系の研究で著名な理 論家であり、P.Ring 氏との共著である Nuclear Many Body Problem (Springer) は、原子核多体問題の標準的な教科書となっています。氏はまた、多粒子系の定 常状態や動的性質についての半古典的なアプローチを開拓してこられたことでも よく知られています。

第1回

日時5月25日(木) 16:30~17:30
場所国際交流会館大会議室
講師酒井 治 先生(都立大物理学教室教授)
題目量子ドットのトンネル効果における近藤効果(Kondo Effect in Electron Tunneling through Quantum Dots)
要旨磁性不純物においては、低温になると近藤効果と呼ばれる現象が起きる。磁 性イオンがスピン自由度を持つとき、伝導電子のスピンとの間に交換相互作用 があれば、それがどんなに弱くとも、電子のフェルミ縮退の効果により、一重 項結合状態ができ、低温ではスピン自由度が消失してしまう。一方、近年の技 術的な進歩により、極めて小さい量子ドットの作成が可能となった。小さなド ットは人工的な磁性イオンと見做すがことができる。 このようなドットを介したトンネル効果ではどの様なことが起きるであろう か?スピン自由度が残っているときには、電子はスピンとの散乱により位相を 乱され、スピンが消失すれば量子力学的に可干渉な過程となると思われる。温 度の変化に応じて、トンネル効果の様子はどの様に変化するであろうか? 数値繰り込み群法や、量子モンテカルロ法などの計算物理学的な方法により、 この問題を調べて得られた結果と、最近の実験結果について紹介する。

1999年度

第2回

日時12月17日 (水) 16:30~17:30
場所理学部大会議室 (212室)
講師家 正則 先生 (国立天文台教授)
題目すばる望遠鏡で見る宇宙
要旨1991年から9年計画で建設を進めてきた国立天文台ハワイ観測所の口径8.2 mす ばる望遠鏡は1999年1月にファーストライトを迎え、1999年12月からいよいよ 本格的な観測装置の試験が始まった。すばる望遠鏡の概要とその初期成果、今 後の展望についてビデオとOHPを主体にご紹介する。

第1回

日時7月14日 (水) 14:00~15:00
場所国際交流会館中会議室
講師山内 正敏 先生 (スウェーデン国立スペース物理研究所)
題目地球磁場と太陽風の相互作用
要旨今回は、オーロラに魅せられ、北極圏で研究を続ける山内正敏先生 の、学部生からスタッフまで皆が楽しめる講演会です。是非ご出席 下さい。
太陽から地球に運ばれるエネルギーの 99% は EUV(極端紫 外線)、UV(紫外線)、可視光線、赤外線などの放射光によるもの ですが、それでも残りの 1% である太陽風は大きなエネルギーを占 めていて地球物理に関わる多くの現象を引き起こします。電離層で の発光現象であるオーロラはその典型例です。
地球の近くではエネルギー輸送が地球磁場のために非線形な現象と なり、そこではエネルギーのキャリアーが粒子から準定常な電磁場 (Poynting flux)へと簡単に移ってしまい、またその逆も起こりま す。
談話会では様々な形態をとった粒子やエネルギーがいかにして地球 高層大気に侵入してくるかを、観測と理論それぞれの立場からスペ ース物理の初心者にも分かりやすいように説明する予定です。また 人工衛星のような観測手段についても説明したいと思います。



所在地
東京都八王子市南大沢1-1

電話番号
042-677-1111(代表)

東京都立大学理学部物理学科/
大学院理学研究科物理学専攻