2000年度講座

 

講座概要

相対性理論と宇宙
相対論が登場しておよそ100年、既に現代物理学の大きな柱となっています。それにもかかわらず、街で見かける本の中には誤解をまねきかねないものも少なくないし、また、長さが縮んで見えるとか時間が遅れるとか、日常の感覚からのずれをいたずらに強調したものも見られます。相対論は何も奇抜なアイデアを元にしているわけではありません。頭をやわらかくして、波が伝わる話から考えてみましょう。光も音も波だというけれど、なぜ光は真空中でも伝わるのだろう?音の伝わる速さというのは何に対する速さなのだろう?光の速さは?講義の前半はそんな話から始まって、相対性理論の考え方と時間・空間を一般的に扱うための数学について話をします。後半では重力の理論としての一般相対論の考え方を簡単に説明し、関連する天体(超新星,中性子星,ブラックホール)やビッグバン宇宙について話をします。後半の宇宙の話には、もう一つの現代物理学の柱、量子論も顔を出します。


カオス-- わずかな違いが運命を変える
私たちの身の回りには、不規則に変動している現象がいろいろあります。その中には、じつはきちんと決められた規則に従っているのに、一見でたらめに振る舞っているかのように見える運動があり、これをカオスと呼びます。カオス運動の特徴は、始めの状態がごく僅かにずれただけで、その後の状態がどんどん大きくずれてくることです。明日の天気予報は良く当たるのに、1ヵ月先の予報が当たらないのはなぜでしょう?このことはカオスの考えによって説明できます。量子力学の世界では、未来は確率的にしか予測できません。ニュートンの運動方程式に従う古典力学の世界では、未来は完全に予測できると何世紀ものあいだ信じられてきました。ところが、この2,30年のあいだに研究が進み、古典論の世界でも、カオス的な運動になると量子論とは違った意味で、未来は予測不可能だということが認識されるようになったのです。身近な例を紹介しながら、カオス運動の複雑さと、その複雑さの中に潜む規則性についてお話します。


水滴のカオス
水道の蛇口をちゃんと閉めないと、水滴がぽたぽたと落ちてきます。この水滴の落下は、一見、きわめて規則的にみえます。しかし、正確に落下間隔を測ってみると、それは一定のこともあり、長短を繰り返すこともあり、まったくでたらめにしか見えないこともあります。実は、水滴の落下間隔には、条件によっては、きわめて大きなゆらぎが含まれているのです。自然界には、実にさまざまなゆらぎが存在します。気温の変動、風にそよぐ木の葉のゆれ、それに、私たちの心臓の拍動などもゆらぎの一種と考えてよいでしょう。こうしたゆらぎの多くは、複雑な無数の原因があつまって生まれてきます。しかし、ゆらぎ現象の中には、簡単な「ルール」から生じてくるものもあります。このようなしくみの一つにカオスがあります。水滴の落下現象は、身近に観測できるカオスの好例です。そこで、実際に水滴の落下を観測して、落下時間間隔のデータをとり、そこからカオスの「ルール」を見つけてみましょう。この作業を通じて、自然界のゆらぎ現象に含まれる、意外な規則性に気がつくことと思います。


量子論の世界
「万物は流転する」というように、私たちの回りの世界には二つとして同じものはなく、万物の変化はそれこそカオスが支配しているように見えます。しかしミクロの世界はずいぶん異なっています。例えば、水道水の中の水素原子と宇宙の彼方にある水素原子は全く同じに違いない。マクロな世界との大きい違いの原因は何か?これに対する解答は、ちょうど100年前にプランクが発見した定数が鍵になっています。20世紀は「量子論の世紀」と呼ばれるほど、この発見に基づく物理学がめざましく発展しました。しかし、量子論はいまだに多くの謎を秘めています。最近の技術の発展は、今やこの量子論の世界をそれこそ目に見える形で露わにしつつあり、次の世紀は量子論の世界を自在に操り、その謎を解明する時代になりそうです。講義では、まずこの理論の基本的な概念を紹介し、次いで量子論の謎にかかわるいくつかの話題と今後の展望を追ってみたいと思います。


光の科学
光はニュートンの時代には「粒子」と考えられていましたが、その後マクスウェルらによる電磁気学が確立して、電磁波としての「波動」と考えられるようになりました。波動と考えると回折など様々な干渉効果が説明できます。ところが、光が単独で存在するのではなく、他の物質と相互作用すると、運動量をもったり、エネルギーが決まったりして、あたかも「粒子」であるかのような振る舞いも見せるのです。実は光は、粒子と波動という一見相反する二つの性質を合わせ持っているとみなしたほうが良いことがわかっています。回折とか偏光などの現象が統一的な見地からどのように記述できるのか、簡単な実験をもおこないながら、考察してみましょう。


X線で宇宙を探る
宇宙物理学の研究では、宇宙をどのような方法で観測し、得られたデータから何が明らかになるのかについて、X線天文学を中心に映像とビデオをつかってわかりやすく解説する。宇宙ではブラックホールやダークマターといった、光を出さないものが影の主役を演じているが、それらの存在はどうやって調べるのだろう?宇宙はどのように進化してきて、はたして今後も永遠に膨張を続けるのだろうか?こうした疑問に対して、最近の宇宙観測技術がどのように進歩をとげ、どこまで解答が得られたのかを実際のデータに基づいて説明したい。