2008年度のノーベル物理学賞を南部・小林・益川の三博士が受賞された。南部先生は真空の対称性の破れに関して、そして小林・益川両先生は粒子と反粒子の対称性の破れに関する研究がその受賞理由である。本講演では、この受賞理由のキーワードであり物理学では非常に重要な概念である対称性、そしてその破れとはどういうものなのかを判りやすく説明する。特に、粒子と反粒子の対称性の破れは、現在我々が住んでいる物質で出来た宇宙が誕生するために絶対に必要な条件となっている。それではこの粒子・反粒子の対称性の破れはどのようにして実現されるのであろうか?それを説明する理論の一つが小林・益川モデルである。小林・益川モデルは1973年に提唱され、2002年にBelleと呼ばれる日本の実験グループとBabarと呼ばれるアメリカの実験グループにより同時にその正しさが証明された。どのようにしてこれらの実験で小林・益川モデルの正しさが証明されたのか?またどうしてその証明に30年以上もかかったのかを説明し、あわせて素粒子実験の面白さを話したい。
バーベキューで火をおこす際に使う木炭の色・書道の際に使う墨汁の色・黒鉛筆の色など、カーボン(炭素)だけでできた材料の色は黒いと思う人は多いのではないでしょうか?しかし、単層カーボンナノチューブの色は黒色ではないのです。単層カーボンナノチューブとは、グラフェンシート(グラファイトの一層)をまるめた直径1ナノメートル程の円筒状のナノカーボン物質です。単層カーボンナノチューブは、その巻き方や円筒の径の違いによって、電気の通しかたや色が大きく変化します。例えば、電気を良く通す金属性の単層カーボンナノチューブで、そして直径が0.8、1.0、1.4 ナノメートルのものを3種類用意します。そうすると、図のようなシアン・マゼンタ・イエローの三つの色鮮やかな溶液を得ることが出来るのです。炭素だけで構成される材料にもかかわらず、このような鮮やかな色を生じる原因は、ナノメートルという非常に微小なサイズで円筒構造を取ることに由来します。ここでは、何故このような色を生じるのか?を解き明かしつつ、ナノサイズの特殊な構造を取ることによって初めて生じる物性について説明します。