2002年度講座
テキスト及び概要
電子のスピンと相転移 - 小人の磁石が突然手を繋ぎ合い強力磁石となる話し - (PDF
150KB)
物理学には、目や手に直接触れるマクロスコピックな物質の性質の起源を、電子等のミクロスコピッ クな状態の様子と結び付け解き明かす分野があります。磁性を例にしてそのような分野の一端を紹介
します。
電子は、スピンという磁石の性質を持っていることは知っているでしょうか。相対論的自転の結果で す。1つひとつの電子の磁石は小さいものです。しかし、強力な磁石といえどもこの小さな磁石の集
まりです。ただし、アボガドロ数程の多くの電子の磁石が一斉に同じ方向を向いた状態です。温度を下げるとある温度で突然全体の向きが揃い出します。なぜ突然なのでしょう?
このように、ミクロな 状態がマクロな範囲で突然変化する現象を相転移といいます。
相転移を調べたり、ミクロな状態とマクロな世界の性質を繋ぐのに統計力学という考え方がとられます。磁石の例はこれを紹介する良い例になります。構成粒子の数が大きくなると、マクロな世界の時
間の向きを決めるエントロピーという概念が必要なこと等も説明します。
講義の時間内では物質の示す性質のほんの一部しか紹介出来ません。研究室見学では、温度等の条件 の違いより、磁性や電気の流れ方が如何に変化するか良く見て下さい。マクロな性質を通して、ミク
ロな粒子達が自分の今の状態をアピールしているのが感じられるかも知れない。
素粒子物理学への招待 - 解明されてきたことと残されている問題 - (PDF 810KB)
物質を可能な限り細かく分解していった時にたどりつく世界が、素粒子の世界である。素粒子とは物 質の最小の構成要素で、その素粒子の性質を解明することにより自然を理解することが素粒子物理学
の目的である。最近はより野心的に、素粒子や時空間そのものの起源を理解しようという試みもある。
この講義では、現在の素粒子物理学が到達している素粒子像を解説しさらに未解決の問題やより野心 的な試みを紹介する。以下の項目について解説する予定である。
1.「標準模型」の解説: 知られている素粒子(クォークやレプトン)の性質と相互作用について。
標準模型がいかに実験とよく合っているか。
2.「標準模型」の問題点:理論的な問題点 --- 素粒子の質量の起源、重力の未考慮、など ---
3.野心的な試み: 超弦理論について
時間の都合上、ごく簡単な解説にならざるをえないが、素粒子物理学がどのようなものか、 雰囲気をつかんでいただくことを目的とする。
衝突する原子! (PDF 6843KB)
皆さんは,物質というものがすべて,原子核の周りを取り囲む原子から構成されていることを,既に ご存じでしょう。実際,自然現象の多くは,原子や分子と光,電子,イオン,あるいは原子同士の衝
突によって引き起こされています。
今,原子物理学の最前線では,極限状態におけるこれらの衝突現象が研究されています。都立大学の 原子物理研究室では,低エネルギー(ミリ電子ボルト)から高エネルギー(100億電子ボルト)にわた
る多価イオン(原子からたくさんの電子をはぎ取ったイオン)と電子,原子,分子,表面,結晶との 衝突実験,さらに極低温(4ケルビン)のイオンと原子の衝突から作り出されるクラスターイオンの
実験が進められています。これらの研究成果は,新しいレーザー開発,宇宙・核融合プラズマ,宇宙 空間での分子生成,イオンビーム工学等の関連分野で応用されています。
今回は,その一端を,実験装置がひしめく研究室の見学と併せて,身近な自然現象から宇宙空間での 現象を織り交ぜ,わかり易く紹介したいと思います。
銀河団でみる宇宙論 (PDF 88KB)
宇宙論では私たちの住む宇宙はどのような構造をしているのか、どのような進化をしてきたのかなど の問題を考えます。宇宙は最初は高温の状態にあり、膨張しながら冷えていることをどこかで聞いて
知っている人は多いのではないかと思います。今では当たり前のように思われているこのビッグバン 宇宙という考え方が正しいとわかったのはたった数十年前のことです。その後も新しい観測結果が続々
と見つかり、それに伴って私たちの宇宙に対する理解も深まってきました。宇宙論の対象は広いので すが、ここでは銀河が数十個から数百個集まった銀河団という天体に注目して以下のような宇宙論の
問題を考えてみたいと思います。
私たちの体を作る骨や脂肪や水は原子が集まったものですから、私たちは原子から作られていると言 えます。では、宇宙も原子が集まって出来たものなのでしょうか?
太陽と月は地球から見るとどちら も同じような大きさに見えます。しかし、実際には太陽の方が400倍も大きいのです。それなのになぜ 同じ大きさに見えるかというと、太陽の方が月よりも400倍も遠くにあるからです。このように、天体
の本当の姿を知るにはその天体までの距離を知ることが重要です。しかし、天体までの距離を物差し をあてて測るわけにはいきません。ではどのようにして距離を測ったら良いでしょうか?
光は毎秒30万kmという非常に速い速度で進みますが、それでも太陽を出てから地球に届くまでに8分程 かかります。つまり、私たちがみる太陽の姿は現在の太陽ではなく、8分過去の太陽の姿なのです。
遠くの天体を見るということはそれだけ、過去の姿を見ていることになります。近くから遠くの銀河 まで順に見ていくことは、同時に過去に遡っていくことになります。宇宙がどのように進化してきた
かを知るためには遠くの銀河を観測することが重要になります。しかし、ある明るさのものを遠くに 持っていくと、小さく、そして暗く見えます。遠くにあるために目では見えないような暗くて小さい
銀河を見るために私たちは望遠鏡を使います。実は宇宙にも望遠鏡のように遠くの天体を明るくする 装置があります。それはどのようなものなのでしょう?